いい湯だ、な?

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「俺に家族なんていねぇよ」 「影秋。口が裂けてもそんなこと言っちゃいけない。影秋には立派な父上がいる、兄の俺がいる」 「ふざけんな。俺は、親父やら兄貴だなんて認めた覚えはねぇし、これからもずっと認めねぇ」 「どうして?」  痛い。胸のあたりが、ズキズキと痛む。痛くて、苦しくて、目の奥が熱くて、体が震える。 「父上に何かされたの?何か言われたの?自分じゃ心当たりがないけど、俺が何かした?どうしてそこまで酷いことが言えるのか、俺にはわからないんだ。影秋が、わからないんだ……」 「俺は忍。1人で生きていける。誰にも、理解されようなんて思わねぇんだよ」  そう言って、影秋は俺に背を向けた。これ以上は本気で言葉を交わしたくないと。さりげなく、敷いていた俺の右手を退けてくれた。  とことん俺から遠ざかろうとする影秋。暴力的だけど、たまに優しい一面を見せる影秋。まだまだ、全然何もわからない。けれど、何かを必死に自分なりに考えている。それはなんとなく感じた。  ねぇ影秋。いつかは、必ず話してくれるんだよね? 「そっか……でもこれだけは覚えておいて。たとえどんなことがあっても、俺は影秋の味方だよ」 「…………」 「寝てしまったか、ごめんね。おやすみ」  規則正しく上下する彼の肩を見つめ、俺もまぶたを閉じる。  最後の言葉を聞いたかどうかはわからないけれど、彼がこのまま朝まで休んでくれると信じたい。きっと、朝になって俺が目を覚ます頃には、隣には誰もいないんだろうから。
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