わかっていた別れ

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 翌朝。なんだか本宅の方が騒がしくて早めに起きてみると、やっぱり隣に影秋の姿はなかった。 「よく眠れたのかな?」  そんな心配をしつつも部屋を出て、顔を洗いに井戸へ向かう。  さすがに井戸は本宅の方にしかないので、軽く手拭いを振り回しながら歩いていく。次第に騒がしい声は大きく、はっきりと聞き取れるようになった。 「何かあったのかな……?」  井戸に着いて顔を洗い、手拭いで拭いながら声に耳を傾けてみる。  何人もの声が、足音が聞こえる。かなり興奮していて、怒鳴り声やすすり泣く声も聞こえてくる。  尋常ではない様子。何か大変なことが起こっている。そう思った俺は、手拭いを手に声が聞こえてくる方へと向かった。 「あ、あの、何があったのですか?」  辿り着いたのは、ある人の部屋の前。数えきれないくらいの人だかりができていて、部屋の中の様子が全然わからない。  この屋敷の中に、こんなにもたくさんの人がいたなんて思わなかった。昨日の晩御飯の時の倍以上はいる。ただ、これだけはわかる。部屋の中を、俺は見なくちゃいけないけれど、見ない方がいい。  その証拠に、数人が振り向いて俺だと気づくと驚き、目を反らし口を閉ざした。何?何、その顔? 「ここは父上の部屋ですよね?父上の身に何かあったのですか!?教えてください!」  俺は目の前にいた男性の両腕をつかみ、必死で叫んだ。俺よりも背が高くて体が大きな男性の袂をつかんで大きく揺さぶり、もう1度「何がっ!!」と叫ぶと咳き込む。  俺の気迫に怯むこともなく、しかし男性はそっと俺の背中をさすりながら目を伏せて一言呟いた。
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