わかっていた別れ

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「…………実秋様が、殺されました」 「え」  一瞬で頭の中が真っ白になった。咳もピタリと止まった。  父上が死んだ?しかも、殺されただって?そんなの冗談ですよね?と男性と目を合わせようとするが、すぐに反らされる。  いつの間にか、この場にいる皆が俺をジッと見ている。憐れむように。そして、当主となった俺を試すように。 「光秋様は、見てはなりません。部屋は我々が片付けます。早くお部屋にお戻りください」  若い女性が、俺に回れ右をさせようと肩をつかんだ。俺は体の弱い風霜光秋だから、部屋の中を見てしまったらその精神的な衝撃が強すぎて倒れて寝込んでしまうから。でも、違う。 「だめだ!俺は、この目で確認しなきゃならない!道を開けなさいっ!!」  無意識に女性の手を振り払い、怒号が飛んだ。今まで出したこともないような、俺らしくもない偉そうな声。自分の声だと気づくのに少しだけ遅れた。  父上から受け継いだ風霜の当主として。そして父上の息子として、この目に焼き付けなければならない。だから俺は1歩踏み出した。  怖い。正直、死んだ人なんて見たことがない、ましてや父上なんて。恐怖と吐き気と震えを我慢して1歩踏み出す度に、周りの人達がサッと弾かれるように道を開ける。  父上に会いたい。ただその一心で、床を踏む。俺は今、どんな顔をしているんだろう?怖い顔?泣きそうな顔?  もうあと1歩で閉められた襖に手が届くという時、部屋から誰かが出てきて襖をピシャリと閉めてしまった。 「ここは通せません」  両手を赤く染めた和之さん。彼は襖の前で両手を広げ、首を横に振る。最後の難関にして最強の敵、そんな気がした。
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