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でも、俺だって負けてはいられない。ここで怖気づいて逃げてしまったら、きっと父上に叱られてしまうだろう。一体何のために当主を俺に譲ったのかと。
「そこを退いてください。俺はもう、守られているだけの俺じゃないんです。何があったのかを見て、考える必要があります」
俺は和之さんにさらに近づき、その揺れる瞳をまっすぐ見つめた。茶色くて、鷹のような鋭い瞳に、俺の灰色の瞳が映る。
俺は逃げない。その決意が伝わるように、力いっぱい見つめ続けた。目を反らさず、瞬きも我慢して。
「申し訳ありませんが、今の光秋様には――」
「今の彼には受け入れられるよ。それとも和之、動揺のあまり君のその2つの目は節穴になってしまったのかい?」
広げた両の拳を握りしめた和之さんが、それでもなお立ちはだかる。が、突然俺の後ろから伸びてきた手が、和之さんの腕をつかんで下げさせた。
今まででほとんど聞いたことのない声に、俺は驚いて振り返った。
「新しい当主の器として相応しいか、これを機にその目で確かめるといい」
「なぜあなたが、ここに?まだそちらに連絡はしていないはず……」
「ちょうど実秋に話があったんだよ。けれど、まさかこんなことになるとは。本当に、もっと早くに……」
「えぇと、夏葉さん……?」
いつの間にそこにいたんですか?俺の真後ろから腕を伸ばしていたのは、鈴ノ宮一族の当主であり、夏の双子の父親でもある夏葉さん。
俺は今までで2、3回くらいしか会ったことがないけれど、かなり頭がきれる当主らしい。父上とは幼なじみで、とても仲がいいんだと孤月さんから聞いたことがある。
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