わかっていた別れ

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 苦しむ間もないくらい、一瞬でやられてしまったのか?風霜一族の当主だった実力を持つ父上を?一撃で?  しかし正面からの攻撃ということは、父上は相手と向き合っていることになる。けれど争った形跡がない。というより、父上の手にもそばにも刀がない。これでは、まるで… 「あんたは本当に馬鹿だよ、実秋……」  限界を超えた。泣き崩れ、父上の遺体にしがみつく夏葉さんは、震える声で呟いた。  今ここにいるのは、鈴ノ宮一族の当主ではなく、父上の幼なじみの夏葉さん。ボロボロと子供のように涙を流し、鼻水まで出ているのも気にせず泣き叫ぶ。  見ていて苦しくなるくらい、彼は突然の別れを悲しんだ。  俺は、涙も出ない。血の繋がった実の父親が殺されたっていうのに、心は悲しいんだけれど、泣けない。ただ冷静に、昨夜この部屋で起こったことを知ろうと考えを巡らせるだけ。 「夏葉さんは、いつかこうなるってわかっていたんですか?」  今の彼にこんなことを聞くのはよくない。それは重々わかっている。だけど、彼の行動や発言を考えれば、そうとしか思えないんだ。 「っ、はぁ…………予想はしていたさ。実秋だって、近いうちに誰が自分の命を奪いに来るのかわかっていた」 「そして、逆らうことなく死を受け入れた。そうですね?」 「あぁ、その通りだよ」  俺の推理に、彼は深く頷いた。  やっぱりそうだったのか。だったら、どうして父上は相手がわかっているのに、わざわざ死を選んだんだろう?  不思議だ。頭がマトモに働いているなんて。いや、頭はマトモでも、心はマトモじゃないのかもしれない。
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