わかっていた別れ

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 そして夏葉さんが「当主としてのお手並み拝見だね?」と、俺に微笑み言い残して立ち去る。赤の部屋に残ったのは、俺だけ。 「さぁ、俺だって頑張りますよ!」  誰に向かって言っているんだか、気合を入れて誰かいないかと廊下に出た。  さっきまでは騒ぎを聞きつけてきた人でいっぱいだったのに、今はもう誰もいない。和之さんが一喝した声が聞こえたから、それで散ったんだろうね。 「すみませーん、誰かいますかー?」  とりあえず手伝ってくれる人を探そうと、呼んでみた。 「はい、ただいま!」  皆、個々でどこかへ行ってしまったのかと思っていたけれど、案外すぐ近くで返事が聞こえた。というより、隣の部屋の襖が開いて小さな影が2つ飛び出してきた。 「あぁ、竜助だったんだね。気持ちのいい返事だったから誰かと思ったよ」 「おいらの部屋は和之さんと同じ、ここですから」  元気いっぱいの返事をしてくれた竜助は、俺を見上げながら部屋を指差す。 「あれ、竜助。後ろにいるのは誰だい?」  俺から隠れるようにして、竜助の背中に縮こまっている人影が見える。誰だろう?と顔を見ようと近づいて覗き込んだら「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた。  ……俺、初対面だと思うんだけど何かしたかなぁ? 「紗奈、この方は影秋さんじゃなくて光秋様だよ。今の当主様。とても優しい方だから大丈夫」 「み、光秋様……?」  恐る恐る顔を出した彼女にニコッと微笑んでみせると、彼女はビクッ!と驚いたのちに安心したのか竜助の隣に並んだ。  あぁ。俺、影秋と間違われたのか。双子だもんね。誤解が解けたとはいえ、ここまで怯えるということは、影秋に何かされたのだろうか?
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