未帰還者#2

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敵の正体が判らないのは少々恐ろしいな。 戦い。殺し合い。 俺はもう人を一人殺した身。 今更躊躇う訳にはいかない。 いや、気持ちで後れを取るはずがない。 それに、煉や組織が何者なのかも、何が起こっているのかもわからないまま死ねるはずがない。 勝たなきゃならん理由は単純明快。 興味があるからだ。 心では人間を辞めた俺だ。生きたいわけでもない。 死は怖くない。 強いて他に理由を挙げるならその後、煉のいる組織に復讐をしたい。 その理由も西園を玩具にした悪趣味な遊びの邪魔をされたからだ。 その馬鹿げた遊びも完遂しようとしている。 完遂したら従順に振る舞いつつ邪魔者を殺して殺して殺し尽くして、平穏を取り戻す。 それから、まだ見ぬ興味の沸くもので遊びたい。 ……それ以外の理由はない。 人生を徒然なるままに生き、徒然なるままに最期を迎える以外の理由はない。 白紙。皆無。 死神を使って戦うのは面白い。 あの力に興味はある。 「……そうか……」 戦う事が。死神の能力で暴れる事が、俺の目的なんだ。 ……俺のしたいことがわかった。 いや、わかっていた。 以前から……”何年も前から”思っていた事じゃないか。 それは、人類の…… 肩を軽く2回叩かれて俺は我に帰った。 やけに重たく感じたヘッドフォンを外すと、煉が悲しそうに目を伏せたまま前に回り込んだ。 「紫苑、お願いがある」 またお願いか。 この女は全く都合がいい。 「……言うだけ言ってみろ」 「私を見て欲しい」 「あぁ?どういう意味だよ、そ……」 続けてしゃべる事が出来なかった。 口が動かせない。 「んぅ」
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