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何日目か分からない程、雨が降り続いていた。
まだ夜明けまでには時間がある。
花島 駿一(はなしま しゅんいち)は自宅のある雑居ビルへの帰り道、外灯下に立つ一人の男に出会った。
俯いたまま傘も差さずに濡れ続けるその男は、黒いシャツが地肌に張り付き、肩まである白金の髪の毛からは雫が滴っている。
男のその髪に当たる外灯の白い灯りは、雨の水分のせいかオパールのように黄緑や薄い橙色などの光に分光し、煌めいていた。
六月といっても梅雨時期の明け方はかなり肌寒い。
しかも目の前の男は濡れそぼっている。
駿一は思わず声を掛けた。
「入り…ますか?」
訥々と低い声でそう言って、自身が差していた大きな黒いコウモリ傘を男に掲げる。
すると男はゆっくりと顔を上げた。
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