96人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
明確な理由を聞いて、一葉は漸く落ち着いた。
言葉の通り、女優になることを目指しているニイナ。
演技にはかなり貪欲で、この3年間色々なことをやって来たな…と、思い出が蘇る。
「喜びなさい、光栄に思いなさい。未来の大女優のファーストキスを捧げるんだから」
「はいはい」
そっと、顔を近付ける。
目を閉じると脳裏に浮かぶ、ニイナ1人だけでステージに立った最後の文化祭。
照明、音響等の裏舞台は一葉が担当した。
それは……表面的に見れば、ニイナだけしか居ないステージだったかもしれない。
しかし…声、動き、ニイナの演技が魅せた。
まるで何人もの配役が立ち並び、演じているかのように。
「っく…」
一葉は泣いた。
押し当てられた、震える唇の感触で。
様々なことを思い出して。
涙が止まらなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!