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だが、志巻は自分が執事として、家庭教師としてつかえる娘のことをまだ何も知らなかった。
知らされているのは、とりあえず成績が悪いこと。
それに困り果てた廉斗が、アルバイトとして勉強を教えてくれる人間を募集したというわけらしい。
「じゃあ早速だが、娘を紹介しよう。ついてきてくれ」
「はい、分かりました」
部屋に入るときに通った廊下を逆戻りし、階段から2階に上がる。
上りきったそこには、向かい合った2つの扉。
廉斗はその2つの、向かって右手の扉を軽くノックしてから声をかけた。
「華、開けるぞ」
「どうぞ」
落ち着いた、静かな声が聞こえた。
扉が開かれると、その先にはふわりとした桃色のワンピースを着た、声と同じような落ち着いた印象の少女がいた。
凛とした瞳で、こちらを見ている。
「紹介しよう、娘の北澤華だ」
廉斗がそう言うと、華はゆっくり頭を下げた。
その動作に合わせて、長い黒髪が流れる。
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