ハロー イン アイスボックス

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交番の方からバスが一台ゆっくりとした速度でロータリーにやってきた。辺りは未だ視界がハッキリとしないが、なぜかバスは明確に捉えることができる。 運転手が一人。乗客は一人も乗っていない。回送バスなのだろうか。 僕の目の前でバスは停車した。停留所というわけではないのに。 よく見ると運転手に見覚えがある。特徴的な顔のようで、その辺にいそうな顔。どこかで見たことがあるような、初めて見るような不思議な顔つきをしている。 表情も笑っているような、怒っているような、悲しんでいるようにも見える。 バスの運転手はバスから降りて、僕の座るベンチにやってくる。ワイシャツの裾を捲し上げ、頭に運転手の帽子を被っている。 「ハロー」 運転手に突然話しかけられ、僕はつい会釈で返してしまう。 「やぁやぁやぁ。君だけかい? あの子と交代か」運転手が意外と高い声で話しだした。 あの子……? 頭の隅で記憶のシナプスが電気信号を送る。 僕はあの子と言われ、思い出そうとしている。運転手の言うあの子を僕は知っている。僕は知っている。 顔は思い出せないが、『あの子』が存在しているのを僕は知っている。突然、頭の中に降って湧いたように、あの子の記憶が蘇る。 同時に今座っているベンチが微かに温いのに気づいた。 直感で『あの子』がさっきまで座っていたことを知る。そうか、あの子もここに来ていたんだね。 「なに笑ってるんだい?」 甲高い声の運転手がニヤニヤしているような、しくしくしているような顔で訊いてくる。 そこで霧がだんだんと濃くなってきた。 ついには目の前のバスや運転手すらも見えなくなり、視界は真っ白になった。 何かベンチに書いてあった気がするが、今はもうなにも見えない。 「おやおや。今回は短いな。もう蘇る時間か。ではまたの機会で」 運転手の声がして、僕の意識は遠くなった。
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