ハロー イン アイスボックス

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時計を見なくても時間はわかる。午前6時を少し過ぎたところだ。 今日の予定はなんだっけ。手帳手帳っと。 バッグの中に入ったままの手帳をめくると『戸井田先生』と書いてあった。 そうだった。今日は大学の講義を受けたあとに戸井田先生のとこに寄るんだった。 戸井田先生は僕が実家を離れて、ここ埼玉で一人暮らしをしてからお世話になっている内科の先生。そして変わり者として知られている人だ。 この先生のところに1ヶ月に1度訪れるのが決まりとなっている。今回で4回目。 さて、行く準備をしようか。まずは朝ごはん朝ごはん。 うつぶせの状態から起き上がると、トースターに6枚切り食パンを2枚並べる。熱したフライパンの上に生卵を2つ割り、水を少し垂らして、蓋をする。 弱火でボイルしているあいだに、洗面所に行って顔を洗った。 帰ってくるころには薄らキツネ色になったトーストが出来上がっているので、それを確認した後、フライパンの火を止める。 半熟やや硬めの目玉焼きをトーストの上に乗せると、上からソースとマヨネーズをかけた。 シンプルだが旨い。 牛乳と一緒にいただいていると、ケータイの着信が鳴った。 ケータイには『母』という文字が映っていた。 「おはよー! ちゃんと生きてる?」 母さんはいつもと同じように、50代半ばとは思えないほどのハイテンションで僕の安否を心配してくれる。 「うん、大丈夫だよ。だけど冷蔵庫の開くスピードがもっと早くなったらいいな。おかげで裸で北極にいるような気分だったよ」 「なにそれ? あはは。トシローは面白いねぇ。父ちゃんに似てきたねぇ!」 全然ジョークじゃないのだけど、母さんの能天気な笑い声を聞いて、訂正するのがバカらしくなった。
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