クツ泥棒とマフィア

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「まぁ理由なんかいい。この部屋を見ればわかるが、お前は異常なほどにクツマニアなんだな。他人の履いたクツが好きで好きで堪らない変態クズ野郎め」 部屋のいたるところにクツが散乱していた。クツクツクツ。クツの山だ。スニーカーにハイヒールにパンプスに長靴につっかけ。ジャンルもブランドも様々。雑食。つまりクツというのであれば男にとっては何でもいいのだ。男用でも女用でも関係ない。 たとえABCマートのでも、イタリアの匠がこしらえたクツであっても、こいつにとっては関係ないのだろう。とにかくクツであれば。 転売目的であるなら足がつかない内に売りさばくのが常識だが、部屋に収集しているということは、男がある種のフェティシズムをもってしてクツを盗んでいることがわかる。 しかも左足用だけ。片方のクツだけ盗んで、残りの片方は現場に置いたきりだ。 「こんな片方のクツばっか集めてどうする気だったんだよ」 武人は呆れたような笑い声をあげる。「まったく狂ってやがる変態野郎だ。おまけにこの部屋臭くてたまらねぇ」 武人は鼻を押さえ、苦々しい顔をする。無理もない。 カーテンが締め切った部屋で、しかもクーラーもつけていない真夏の昼下がり。 どこの誰が履いたか分からない片方のクツたちはありったけの異臭を部屋に撒き散らしていた。 「うちの婆ちゃんが見たら腰を抜かすだろうな」 俺は新調したスーツに汚れがつかないように、ハンカチで男を蹴ったクツを拭いた。返り血で汚されるのは勘弁だ。 「ブラックの家族は潔癖黒人一家だからな」武人が笑う。 「なんだ武人。俺の家族を馬鹿にするんだったら承知しねぇぞ」 自分のことはいいが、家族のことをとやかく言われるのを俺は大嫌いだ。 「まぁまぁ怒るなって。潔癖なのは本当のことじゃねぇか」武人は両手を開いて、自分には非がないことをアピールする。 「ふん!」武人のことは無視して、話を進めることにした。
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