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「ブラック。ボスのクツ探さなくてよかったのか? あれ高いんだろう」
組の事務所まで帰る車中、武人は男から切り離したアレが入ったビニール袋を後部座席に置きながら言った。
「今回の目的は犯人探しだ。つまりボスのクツを盗んだ奴を見つけること。そいつにきっちりヤキを入れればボスも満足だろうさ。それにお前だったら変態が持ってったクツなんて履きたくないだろう? ボスも同じ気持ちさ。残った方は既に処分済みだしな」
ふぅん、とつぶやいて武人は座席を倒し、ふんぞり返った。
「しかし相変わらず武人のサディスティックな行為には呆れるな」
俺の言葉に武人は嬉しそうに笑う。褒められていると勘違いしているらしい。まるっきり逆の意味を籠めたのだが。
「結局泣き叫ぶもんだから時間がかかっちまった。静かにしてればもっと綺麗に切れたんだけどさ。次の機会があればスピーディーかつスマートかつハイセンスにいきたいもんだね」
武人は意味のわからない抱負を述べたが、ボスは武人のこの凶暴性を買っているので俺は何も言わない。
実際、ヤキを入れるということは案外簡単なことではなく、ただ殴る蹴るの暴力を加えれば良いというわけではない。
ヤキを入れる側がどれだけの怒りを持っているかを結果ではなく過程で相手に示す必要がある。
そうすることによってヤキを入れられた側は今後一切楯突くことなく、従順になる。そうしなければヤキを入れる意味がなくなってしまう。
そういう点で武人はヤキ入れに対して天性の才があると言える。ここをこうしたら良いだとか、これはメッセージ性がないからダメだとか、ヤキ入れに対するアイデアがポンポン出てくる。まるで職人のようなこだわり。仕事(ヤキ入れ)に対しての貪欲なまでの向上心でこの男は出来上がっているようだ。
今回切り落とした左足をボスに見せること(武人の考案)で、きっとボスも満足しこの件は一段落するだろう。
これが他の奴で、他の方法だったらボスは満足せず、俺達に当り散らすかもしれない。それだけは勘弁だ。
そういう意味で今回の仕事に武人が居てくれてよかったと言える。
まぁ他の仕事でもほとんど武人と一緒なのだが。
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