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凍えるような寒さが残る。
冬のラストスパート。
ガサガサ音を立てる紙袋をぶら提げて、
うっすら雪の積もった道を行く。
雪なんて、降れば大喜びした小学生の頃。
今はべちゃべちゃの雪を見て、
凍ったら困るなぁと、思っていた。
短い距離だけど、手袋をしてくれば良かった。
ぐるぐるに巻きつけたマフラーに、顔を埋める。
「はい、コレ。瞬の分」
「おー、ありがとう。今年はもらえないと思ってた」
「ええ?何で」
「だって、受験真っ最中じゃん。これ手作りでしょ?余裕だね、耀ちゃん」
「だって私、センターかなり良かったもん。ダメ元でセンター受験出したとこ、受かったし。それに、今更あがいても、しょうがないでしょ」
「相変わらず、そういうとこ男前だねぇ」
「…褒めてる?」
「ククッ。褒めてる、褒めてる」
笑い方が似ている。
そんなことを可笑しく思いながら、玄関から家の奥を見やった。
「あ、兄貴居ないんだ。出掛けた」
「なんだ、そうなんだ」
「うん。大人しくしてればいいのにね。いつまでも、ガキなんだから」
「あはは。瞬にそれ言われたらオシマイだわ」
「あ、今サラッとバカにしたよね、俺のこと」
「してないよ。じゃあさ、おじさんの分と、洋介の分。置いてくから、渡しておいて」
「はーい」
「おばさんにもよろしく」
「はーい」
「じゃあね。お邪魔しました」
もう一度、雪に濡れた道を行く。
冷たい空気が鼻の穴を攻撃する。
じゃく、じゃく。
あまり楽しそうでない音を鳴らす、足元の雪道。
じゃく、じゃく。
転ばないよう気を付けながら、慎重に。
角を曲がる。
角を曲がって出た道には、よく陽が差していて
雪は、殆ど溶けてカタチを崩していた。
これなら、凍る前に無くなっちゃうかな。
じゃく、じゃく。
耀。
冷たい空気に、透き通った声が聞こえた。
私の名を呼ぶ、優しい声。
耀。
顔を上げる。
赤鼻の、愛しい君が、
いつものところから顔を出して私を待っていた。
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