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「行ってらっしゃい。暗くなるときは危ないから、理沙ちゃんと一緒に帰ってくるのよ」
「はいはい、分かってるよ」
母親からの小言を受け流し、玄関を開ける。すると、見慣れた姿が目に入ってきた。
「おはよう、順也くん」
門の前で理沙が軽く手を振りながら待っていた。
「早いね、理沙」
予定の時間には5分ほど余裕があったものの、理沙もオレも自然と相手を待たせないように早めに家を出たのかもしれない。
玄関から門までの数メートルの距離を早歩きし、一気に理沙との差を詰める。
「今日から3年生だからね。なんとなく気持ちが高ぶってるのかな?」
そう言うと、理沙は頭に手を当てて苦笑いをした。肩付近まで伸びている髪が、時折吹く風になびいている。
「理沙ちゃん、順也をよろしくね~。っていうか、早く順也をもらってくれないかしら~?」
「おばさん、おはようございます。順也くんは私にはもったいないですよー」
オレの母親が理沙に会う度に、同じような事を言う。理沙も理沙で、毎度同じような返事をする。最初の方はオレもムキになって否定したが、今では軽く流せるようなやりとりである。
しかしながら、ノリが軽いというか、包み隠さず物事を考えて発言するあたりはやめてほしいと思う。
「はいはい。そんなこと言ってる暇があったら、さっさと支度しろよ。遅刻するぞ」
「あら、ノリが悪い息子ねぇ」
「おばさん、行ってきます」
理沙がオレの母親に手を振りながら歩き出すのに対し、オレも前を向きながら軽く後ろに手を振る。視界では捉えられないが、母親も優しい眼差しで手を振ってくれている気がした。
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