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いつも通りの最低の桁だ。
思わず溜め息が混ざってしまった。
俺と話をしているこの人は伊之場 智則。
髪は茶色で黒縁メガネを掛けている。黒地のTシャツに茶色のズボン、さらにその上から着ている白衣が、いかにも『俺って実は科学者なんですよ』みたいな雰囲気をプンプン醸し出している。
俺の世話をしてくれていて、こうして能力に関する手伝いをしてもらっている。
……周囲の人から「マッドサイエンティスト」なんて呼ばれているもんだから少しばかり変わり者だったりするけど。
「んじゃ、データまとめるから俺はそろそろ行くぞ。最後に出るならきちんと部屋閉めておけよ」
そうして伊之場は部屋を出ようとした。
「……伊之場さん」
「ん?」
「前から思ってたんですけど、能力も使えない俺に何でそこまでしてくれるんですか?」
この島では多くの人間が能力を使える。
伊之場は昔、実際に科学者だったため、コアに関する研究をしていた事もある。
普通なら珍しい能力にでも目を向ければいいのに。
でもこの人はずっと俺の事に関する研究を優先している。
能力なんて全く使えない俺を。
「そうだなー……」
伊之場は悩む素振りを見せたが、
すぐに怪しい笑みを浮かべてこちらを向いた。
「お前だと、研究のしがいがあるからかな」
それだけ言うと伊之場は「じゃあ、また後でな」と言って部屋を出た。
俺は伊之場の言った言葉の意味が理解出来ずに立ち尽くしていた。
俺だと研究のしがいがある?
「……よく分かんねーな、マッドサイエンティスト様の考える事は」
一人取り残される形となっていた俺は、とりあえず伊之場の元へ向かうため、適当に貼り付いていた電極を剥がして部屋を出た。
***
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