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わたしたちのスペースに行くと、先に、サークル仲間である、刹那が販売する同人誌を並べていた。
刹那は、同じく『薄桜鬼』の主人公である、雪村千鶴のコスプレをしているので、時代劇に出てきそうな、町娘の格好だ。
刹那と知り合ったのも、SNS<たまりば>の中で、刹那が日記に『薄桜鬼』の話題を書いていたのを読んで、思わずメッセージを送ったのが、キッカケだった。
それが今ではこうして、サークルを作って、一緒に同人誌を作るような仲に発展した。
今ではわたしの、大好きな戦友だ。
「大丈夫、顔色悪いよ」
刹那がわたしの顔をのぞきこんで、心配そうに聞いてきた。
確かに、鏡に写った、わたしの顔色は、悪かったかも。
「ううん、平気よ」
「なら、いいけど。やっぱ、徹夜明けはつらいもんね。気をつけないと」
「そうね‥‥」
今日売る同人誌が完成したのは、今日の朝の五時頃の話だった。
原稿書いて、コピーして、製本して‥‥気がつくと、窓越しに明るい空が空が見えた。
そして、九時半のサークル入場を目指して、早朝の高速バスに飛び乗って、長崎から福岡へと向かった。
高速バスの中では爆睡状態だったことは、言うまでもなく。
こんなお肌と健康に悪いことに、わたしたちは情熱を燃やしてる。
でも、それだけが原因じゃないってことは、わたし自身、よくわかっていることだった。
彼、ドモンとのこと‥‥。
大好きな場所にいながら、そこに居る事への迷いが、わたしの中に芽生え始めていた。
「寧々、さっきの人のお釣り、間違ってるよ!」
数万人の来場者がいるので、わたしたちのスペースに立ち寄る客も、多かった。
飛ぶように、とは言わないまでも、わたしたちの同人誌も好調に売れて行った。
それとともに、わたしのミスも多くなってしまった。
そのたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「もう大丈夫みたいだから、寧々も、まわってきていいよ」
時間と共に、人の流れが緩やかになってきて、気を使って、刹那はそう言ってくれた。
わたしは、その言葉に、素直に甘える。
ごめんね、刹那‥‥。
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