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蒸し蒸しとした夏が過ぎ、暑すぎもせず、寒すぎもしない季節――秋だ。紅葉の美しさなんて別段興味もないが、俺はこの季節が過ごしやすく、一番好きだと思う。思うっていうのは、今まで特に意識することがなかったからだが。
俺、南部 翔太がいるクラスは今、秋の文化祭についての話題で、異様に盛り上がっている。休み時間はいつもより騒がしいし、昼休みや放課後は、基本的に強制準備タイムだ。中には授業中でも、小さなメモ用紙で手紙を回している奴もいる。
生徒会長も努める俺の幼馴染み、北古 零は、あっちこっちへ引っ張りだこだ。実は救いようのない程、手先が不器用な零だが、クラスメイトに対する指示は実に的確、そしてその判断は、ほとんど迷うことなく素早い。
これだけ盛り上がっているのには、勿論理由があった。文化祭に訪れた部外者は、気に入ったクラスの展示に投票することが出来るのだ。そして、獲得票数が多いクラスには、何と賞金がある。その賞金で、クラス全員、焼き肉食べ放題の店で打ち上げをするのが、我が校の慣例だ。この不景気の最中だというのに、太っ腹な学校はあるものだ。
さて、俺達の打ち上げが懸かっている大切な展示の中身……それが俺を憂鬱にさせる。
昼休み、はぁっと溜め息をついた俺を、零とクラスメイトが呼んで手招きをする。
「翔太、やはりお化け役が足りないんだ。
やってくれないか?」
俺は今、あからさまに嫌な顔をしていることだろう。大好きな零の頼みとはいえ、俺はお化けというものが苦手だ。たとえ演じる方であっても。そして、零はそのことを知っているはずだ。だがクラスメイトの一人、赤いカチューシャがトレードマークの西城 朱里(さいじょう あかり)が、さらに追い討ちをかけてくる。
「キタコレさんから聞いたから、好きじゃないっていうのは知っているよ、ごめんね。
ただみんなも学祭中、いろいろ回ったりしたいしさ。途中で交替する要員も考えたら、どうしても人手が足りなくて。
それに南部君、似合うと思うよー!
狼男とか!」
お化け屋敷に、狼男っているのか?普通はハロウィンの気がするが。ただ……俺も零と学祭を回れるなら良いかもしれない。いくら苦手なお化けでも、小学生の時みたく泡吹いて卒倒することはないだろう。
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