3人が本棚に入れています
本棚に追加
かくして俺は、毛むくじゃらの格好をした狼男に仮装することになった。今日は文化祭前日ということもあり、クラス全員が放課後も学校に残ってリハーサルだ。
BGM班は黒ビニール製の壁の奥で待機。衣装班は虫食いや汚れがないかチェック。メイク班や仕掛け班は、使う道具の確認と、お化け役との打ち合わせ、などなど。
夏休み前からの少ない期間でやるだけあって、俺達はてんてこ舞いだ。迷っている暇や、サボっている暇はない。なぜか俺達の担任教師まで気合いが入っていて、(教師まで焼き肉の為か?)お化け役の演技に怒号に近い演技指導が入る。
俺の出番は出口付近。流石にもうそろそろ出口だろう、と安心させた所で、足元から音と共に白い煙が噴出。なんだ、それだけかと思わせた瞬間、ハリボテの月と共に狼男の俺が姿を現し、雄叫びを上げながら襲いかかるフリをする。
こんなことで大丈夫か、と思ったが、仕掛けを知っているクラスメイトでも割りと声でビビるものらしく、女子は叫び声を上げた。西城はケラケラと無邪気に笑い、零に至っては冷たい視線を向けられた。俺の繊細なハートに少しだけヒビが入る。これは辛い。
「アハハ!
南部君、様になってるよ!
人は見かけによらないよね」
……どういう意味だよ。そう言いたいが、俺は目で訴えるだけだった。そして俺の顔は、狼の被り物で見えないはずだ。
「……翔太」
「……ハイ」
「翔太はやっぱり翔太だ」
零の反応は、西城よりさらに意味がわからない。
騒がしくも時は過ぎ、完全下校の時間は訪れる。準備は終わり、みんなで円陣を組んだ。零の手に触れる男子がいないよう、俺はさりげなく零の手をガード。最近は零と何気ない会話をする機会ですら減っていたが、久々のラッキーチャンスが来たぞ、これは。
西城が、気合いの入った大声で合図をした。
「みんなで焼き肉食べに行くぞー!」
オー!と高い声や野太い声が、校舎に木霊した。正直に言うと、あんまり乗り気じゃない文化祭だが、それでも青春って感じがしてくるから不思議だ。
帰りはこれまた久々に、零と並んで帰ることになった。零はどう思っているのか知らないが、俺にとってはこの時間が、二人きりになれる貴重な時間だ。大して喋ることはないが、俺は歩調を合わせながら、零と歩く時の、何とも言えない空気感が好きだ。
最初のコメントを投稿しよう!