はじまり

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「はーそこんとこツライ。給料あげてくんなくちゃやってらんない」 「礼治さん、女の子の扱い得意でしょ」 「そんなことないさ。沙知加ちゃんも結月ちゃんもオレよか一回りも違うんだから。おぢさんは相手になんかされないだよ。圏外だから、いいんだって」 そう言って、また紙コップからコーヒーを啜る。 この軽いとも言えるそぶりが、モデルに警戒心を与えずに自由な撮影になる。モデルをその気にさせるトークだって、もちろんスキルのうちだ。 そこそこ忙しい礼治さんは思い出したかのように、オレに言った。 「ねぇ結輝バイトしない?」 「バイトですか」 この撮影もバイトみたいだな、と思いながら先を促す。 「実は友達が担当してたブライダル撮影なんだけど、そいつ山に行くって言い出してさ。帰ってくるまでに入れた仕事を代わりにこなして欲しいんだよね」 「ずいぶん唐突なんですね」 「もともとそいつは山岳写真撮ってたんだけど、それで飯喰えなくってさ。ブライダルは生活のためだったんだよね。ただ今回いい条件で参加できるパーティーがあって、後先考えずに行くことにしやがったのよ」 軽く笑いながらだけれども、オレが断るなんて考えてもみないそぶりだ。
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