36人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしことオカダミサは、12歳にしておかみさんと呼ばれている。
遠足に行けば先生に間違われ、バスに乗れば子供料金を払うたびに疑われる。
不本意だ。
「なあおかみさん、算数の宿題見せてくんない?ほら、斑の忘れ物グラフ、うちの斑ダントツだからヤバいだろ?」
「誰のせいでダントツなのよ!ぜーんぶあんたのせいだ!」
そう、となりの席のアリハラユウジは問題児だ。
忘れ物だらけ、宿題はしない、授業中に寝る、つくえの中にえたいの知れないものが入ってる。
「だからおかみさんの出番だって。おれ、死ぬ気でノートうつすからさ」
バーカバカバカ。
そこで死ぬくらいなら、死ぬ気で宿題してこい。
ホントのところ、あいつが宿題どころじゃないことを、あたしは知っている。
仕事がいそがしいお父さんやお母さんの代わりに、弟さんや妹さんの面倒を見るのは、あいつの仕事だ。
あいつから聞いたわけじゃない。
朝も夕方も、あわてて保育園にかけこむあいつを見ちゃったんだ。
「へっへ、おかみさん、いいもんやる」
なにげなく出したあたしの手に、置かれたのはアマガエル。
「キャーキャーさわぐと思ったの?」
あたしはあいつをにらんで、カエルを投げつけた。
「いや、思わない。おかみさんだもんな」
ゲラゲラ笑いながら、あいつはあたしが貸したノートを返してきた。
授業中、ぱらぱらとノートをめくっていると、見覚えのないきちょうめんな字が目に飛びこんできた。
『いつもごめんな、ありがとう』
風が音を立てて窓から入ってきて、寝たふりをしたあいつが一つくしゃみをした。
最初のコメントを投稿しよう!