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ピ、という微かなアラートと共に、世界が始まった。
それまで何もなかった真の闇。
自己というものさえなかった虚無。
ただ、無、であったものが、唐突に生まれたのだ。
カタカタカタ。
身体の奥で、CPUが回転数を上げる。
長い長い呪文のような構文がいくつも平行して処理され、AIが立ち上がってそれを補助する。
まず起動したのは、集音器だった。
いわゆる、耳、と呼ばれるそれ。
唸り声のような永久発電機関(ダイナモ)の動き始める音、そして誰かの呼吸音が聞こえてくる。
次いで立ち上がったのはカメラ・アイだ。
閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げると、真正面に、白衣の男性が立っている。
ゆるくウェーブした、長い栗色の髪。
首の後ろでひとつに結わえてはいるが、前髪がうっとうしげに乱れて、幾筋か額へ落ち掛かっている。
縁の細い銀色の眼鏡と、ひょろりとした中肉中背の肉体。
初めて見る姿なのに、それが誰であるのかはすぐに解った。
HDDに、制作者として登録されているキリ・セキモト博士だ。
「Go_od Morni_ng Dr.」
プログラムされていた通りに、そう声に出した。
だが、どうにも発声がなめらかではない。所々つっかえて、まるでどもっているようだ。
なるほど、発声の優先順位は低いのか。
そう判断していると、目の前の博士がにこにこと微笑んだ。
とても嬉しそうだ。
「おはよう、KT-01。素晴らしいクイックスタートだ!電源を入れてから起動まで、二十秒も掛からなかったよ」
KT-01。
それが、自分の名前だった。
キリ・セキモトチームによるモデリングタイプアンドロイドのKTシリーズ、その一号機。
それが、自分だ。
「僕が誰だかは解る?」
「イエス、ドクター。俺の制作責任者です」
「よしよし、良い子だ!」
博士は更に破顔した。
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