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その表情が示すものは「歓喜」だと、AIにあらかじめ組み込まれていた感情のデータとパターン分析が告げている。
「パパって呼んでもいいんだよー」
更に博士は告げたが、それは適当ではない、と瞬時にAIが判断した。
だが、それを婉曲に「人間らしく」断る台詞は、まだ学習していない。
反応するべき台詞はどれが正しいのか、処理する為に膨大なデータを一から検索する。
それは予想よりも時間のかかる作業だった。
返答まで、不自然な間が空く。
「アレ?呼ばないの?」
不思議そうに自分を覗き込んだ博士の後ろ。
そこから、データにない誰か、の声がした。
「……それは言わないと思うわ、キリ」
少女の声だ。
カメラ・アイをズームして見ると、博士の背中に隠れるようにして、小柄な少女が立っていた。
はしばみ色の髪、はしばみ色の瞳。
細い身体に沿うようなニットに、プリーツのミニスカート、膝上まである紺色のソックス。
長い髪を、両の耳元から一本ずつの三つ編みにして垂らしている。
コレハ 誰 ダ ?
「えっ何で?だってパパだよ?」
その疑問は自分へ向けられるべきものであるのに、博士は少女を振り返った。
少女は肩を竦めて、博士を見る。
「父親って意味ではそうだろうけど。あんまり適切じゃないと思う」
少女は呆れたようにそう言った。
口調が幼い。身体的特徴からは十四歳から十五歳だろうと推測するが、ではもっと若いのだろうか。
カタカタカタ。
CPUは微かな音を立てながら、相変わらず凄まじい勢いで回転し続ける。
何でかなあ、と博士は独りごちた。
そうして、まあいいや、と肩を浮かせて、また機械に向き直る。
「KT-01、紹介するよ。この子はね、リル・セイダ」
「復唱します。リル・セイダ」
「そう。君が起動したのはね、彼女を守る為なんだよ。それから、研究の手伝いもね」
それはつまり、彼女が自分の使役者(マスター)という事か。
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