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キュイイ、と配線が軋んだ音を微かに立てる。
おずおずと博士の前へ進み出てきた少女を、起動したばかりのカメラ・アイが見つめた。
マスター。
―――俺の守るべき存在。
俺の存在する、理由。
「初めまして、KT-01。……ねえキリ、呼びにくいよ。名前を付けてもいい?」
「ああ、そうだね。この子は君にあげるものだから、好きに付けて良いよ」
「もの、って。何かイヤだな、それ」
だって、この子、物だなんて思えない。
言いながら少女は、焦げ茶色のカバーの下から不自然に光る赤いカメラ・アイを、じっと見つめた。
「……ケイティ」
KT-01だから、ケイティ。
「どうかな。あなたは今日から、ケイティ」
まんまじゃないか、リル。
博士がそう言って笑っている。
けれど、その音の響きは耳に心地よい。
ケイティ。
初めて得た「名前」。
自分だけの記号。
「ありがとうございます、マスター」
―――ケイティ。
管理番号以外の記号を持てる事に、AIがざわり、と動き出す。
疑似感情システムが、猛烈な勢いでシナプスを繋げていく。
これは、「喜び」だ。
初めて覚えた感情が「喜び」であった事を、俺は稼働が止まるその時まで、きっと忘れはしないだろう。
学習システムにその起伏を焼き付けながら、ケイティは目の前の小さな少女を、ただじっと、見つめていた。
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