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かつて都市と呼ばれていたのだろうそこは、だがもう随分と荒れ果てていた。
アスファルトは剥がれ返り、茂って伸びる雑草の根元に、その残骸を醜く転がしている。
以前は建物であった、と解るコンクリートの塊が、撤去もされないまま、残った基礎の上に崩れ落ちていた。
一目で解る。
見捨てられた土地だ。
動かないリニア・ウェイ、錆び付いた鉄塔。
そんなものばかりが視界を埋める中、だが、ただ一つだけ未だ燦然と佇み続けている施設があった。
丸いドーム型の屋根をした大きな建物。
四方をぐるりと壁に囲まれて、遠目にはその全容が解らない。
しかしかなりに大きく、大勢の人間が暮らす建物であろう事が、すぐに見て取れる。
黄昏時。
施設を囲む灰色の壁が、一帯を染め上げるような茜色の夕陽を受けて、ほんのりと赤みを帯びる。
そこに、今、のっそりと迫り来る影があった。
生い茂る雑草の合間、健やかに枝を伸ばした木々の影に、潜むようにして身を隠している。
じり、じりと近付いて、また木の陰にさっと隠れる。
その口元からは、フーッ、フーッと荒い息がこぼれていた。
だらしなく開いた唇の端からは、たらたらと涎までがしたたり落ちている。
縦に長い瞳孔が、爛々と光っていた。
その目に知性や、理性といったものは何一つ見当たらない。
夕陽がゆっくりと沈んでいくのを、それらは今か、今かと待ち構えていた。それでも視界の悪くなる夜を待つ程度には、知恵も残っているらしい。
だが、やがて、グルルルル、と喉の奥から唸るような声が、方々から聞こえ始めた。
待つことに飽いたのか、まるで合唱でも始めたかのように響き渡る。
グルルルル、グルルル。
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