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比較的近くの飲食店でコーヒーを頼み、家からの移動で冷えた体を温める様にゆっくりとカップを傾け飲み下していく。4月の夜に朱音の格好は寒すぎる様だ。
カップをテーブルに置き、軽く吐息を吐きだしながら背凭れに体重を預けていく。
店員を呼び、フライドポテトを注文すると、寒い夜には相応しくない明るい声が突然聞こえてくる。
「やっ! 少年!」
閉じ掛けている瞼のまま、半眼で明るい声の主に目を向ける。
声の主は女性だった。肩甲骨辺りまである茶色い髪の毛を手櫛で直しながら、頬を赤くし息を切らしている所を見ると走ってきた事が窺える。
「……。……、……誰?」
「ちょっとぉ!?」
数秒、数十秒熟考するが、眠気に負けかけている頭では馴染みの無い女性が誰だか思い出せず素直に問うと、女性が素っ頓狂な声をあげる。
突然の奇声に飲食店に居る殆どの人が2人に好奇の視線を向けるが、朱音を見ると畏怖と軽蔑の混じった視線で朱音を見ている。
その視線を感じ、朱音は苦虫を噛み潰した様な気分に成るが、決して表情には出さず、眠気が吹き飛んだ頭で女性が誰かを思い出した。
「……誰」
「えぇ……」
思い出したからといって、気に入らない人物の名前を素直に言うほど朱音の性格は純粋ではない。
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