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「少し、抽象的すぎましたでしょうか。具体的には、現状に満足しているのか、つまり、望むべくして、現状に身をおかれているのかと、こう、お聞きしているわけです。」
彼女が顔を引き締めて、ぐっと身をのりだすと、私の頬が音をたてた。
「馬鹿にしてんのかい!誰がこんな仕事。」
手刀を今にも翻さんとしていたアルをなだめつつ、もう少し詳しく話を聞くために、彼女を見つめ直した。
「では、何故、現状に甘んじておられるのか。」
「金に決まってんじゃないか。」
返答が素早いと歯切れが良いですね。
「ふむ。では、今まで稼いだお金はどのように使われたのですか?さぞ、有意義に使われたのでしょう?」
「っ。金だけじゃないよ!男さ、男共が悪いのさ。見境なくその辺の娘を襲うかわりに、うちに来てるんだから、感謝してほしいね。」
非常に興味深い。
「なるほど、では、貴女は、犯罪の抑止に貢献しつつ金を稼ぎ、その仕事についての責任は世の男性にあるのだと、そう仰るのですね?」
「その通りだよ!話が終わったんなら、さっさと出ていきな。」
「いえ、そういうわけにもいきません。もう一つだけ。今の理由を失ったなら、貴女は、幸せになりますか?金に余裕があり、男性に秩序が戻り、この仕事をしなくても良くなったら、貴女は、幸せになりますか?」
「それはさぞかし幸せだろうね。でもあいにく私のような人間には、これ以外に職はないのさ。」
「ふむ。なるほど。その後に手に職をつけ、産業へと参入できれば良いわけか。いや、大変貴重なお時間、ありがとうございました。これにて、失礼致します。」
店を出てアルを引き連れ路地を奥へ奥へと進んでいく。
全ての方が同じ考え方だとはもちろん限りませんが、まあ、妥当なところでしょうか。
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