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どことなくぐったりとした男を尻目に、努めて丁寧な口調で質問する。
「このようなことを生業としていて、本当に幸せなのですか?」
泳いでいた目を不意にギラリと輝かせ、吠えるように男は食い付いた。
「俺だってなあ、好きでこんなことやってる訳じゃあねえ。でもなあ、兄ちゃん。あんた達みたいに恵まれた人間ばっかりで世の中できてねえんだよ。」
「ふむ。私たちが恵まれている事は認めましょう。では、あなたは何故、恵まれていないのですか。」
「そんなもん知るわけねえ。子供の頃から今までずっとはみ出しもんで、何やってもうまくいかねえんだよ!こんなのはなあ、全部世の中が悪りいんだ。俺だって、俺だってなあ…」
ふむ。また、なかなかに興味深い主張ですね。
「なるほど。あなたは幸せをつかむために努力したが、世間のせいでうまくいかず、現状は本意ではない、と?」
「そうだ。俺だって、俺だってなあ、他人の幸せ食い散らかすようなことたあ、本当はしたくねえんだよ。でもなあ、こうでもしてねえと、どうにかなっちまいそうなんだ。」
生き甲斐の欠如が原因なのでしょう。
このような男性が、先程の女性のような方々を苦しめる。
まさに、憎しみの連鎖ですね。
「ふむ。貴重なお時間ありがとうございました。あなたの意見が、これから活かされるでしょう。アル、あと少し用事を済ませれば、終わりですから、もう少しだけ付き合ってくださいね。」
「うむ。そろそろ日も暮れる。早く我が家へ帰りたいな。」
男を解放し、街の広場まで戻ってから、用事を手際よく済ませ、来た道をまったりと戻る。
「さて、手でも繋ぎましょうかね。」
「構わないが、何がそんなに嬉しいのか、理解に苦しむな。」
「いえ、ただ何となく、幸せだな、ってね。さ、いきましょう。」
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