始まり

2/2
前へ
/81ページ
次へ
生まれ育った、街灯すら少ない田舎町を、愛用のバイクで走る。 ふもとまで10分、頂上にある天文台の駐車場までは5分とかからない。 天文台がある頂上につくと、すでに夜空は満天の星だ。 リーン、リーン、リーン… 夏の風物詩というべきなのだろう… 夏定番の鈴虫などの鳴き声と、小川を流れる水の音が僕の耳を刺激する。 普通なら天文台に向かうのだけれど、僕は違う方向へ足を向けた。 限られた人しか知らない、秘密の場所へと。 そこに、僕、星野 光(ほしの ひかる)は天体観測をしにきた。 「ちょっと休憩するか…」 僕は独り言をつぶやいて、ブルーシートを敷いて寝転がった。 あれから十年だから、ここに来るのも、もう十回目なのか…と、 ブルーシートに寝転がり、眼前に広がる満天の星を見ながらそんなことを考えていた。 ここには、1年に1度、八月二十日にかならず来ている。 彼女と僕だけの、思い出の場所だから…。 あの夏のことは、今でも全部鮮明に思い出せる。 「懐かしいなぁ~…」 高校最後の夏休みのことだった。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加