一章 不可逆の覚醒

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 別に大会でもなんでもないし気負う必要はない、と猛は言ってくれたが、漣はまったく気負ってなどいなかった。臆するなど漣らしくもない、ゆえに有り得ない。猛のチームの助っ人としてただコートに立ち、そこそこの動きをすればいいだけの話だ。そこには一切の責任もない。  唯一の不安材料と言えば、相手チームの有名なお方とやらがどんな人物か、というだけだ。 「じゃあ、放課後になったら教室に迎えに来るぜ。身体だけは鈍ってるだろうから動かしておけよ」  冗談ぽく言って猛は踵を返した。打ち込めるものを見つけたら誰よりも熱くなる男、葉桜猛。それはうまくなるためや強くなるためというよりは、楽しむためのものだ。漣にはそう写った。あくまでも趣味の範囲。あくまでも自己完結。他者に努力や向上心を求めない。そういう意味で都合のいい男だったのだ、漣にとっては。 「……夕方の時間は潰れたな」  文句があるとすればそれだけだった。 2  猛に案内されたサウス・スクエア――「総合アミューズメントパーク」という仰々しいジャンルに分類された複合施設は、大きく分けて四つのエリアに分かれている。  だだっ広い原っぱがあるパークエリア。楕円形のサッカー場があるスタジアムエリア。親子連れに大人気のアスレチックエリア。そして様々な競技が展開されるスポーツエリアだ。  スポーツエリアはテニス推しらしく、その敷地の半分はテニスコートだった。バスケットボール用のハーフコートはスポーツエリアの奥の方に追いやられるような形で設置されている。豪快なプレーが多いせいか使われる頻度が高いせいか、バスケット裏のプラスチック板は傷だらけだ。
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