一章 不可逆の覚醒

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 時刻は午後四時十五分。約束の時間は四時と聞いている。しかしここにいるのは今着いた猛と漣だけ。大御所を気取る相手チームはともかく、猛のチームメイトが来ていないのは気になった。 「まだ来てねえみたいだし……ちょっとやってみるか?」  不敵な笑みを浮かべて猛が言った。漣には思うところがあったが、思考をやめて猛との道楽に付き合うことにした。猛が勝ち負け以前にただバスケをやりたいという衝動だけで動く人間だと知っているからだ。 「1on1ってやつだな。先にあのゴールに入れたほうが勝ち。一本勝負だ」 「一本でいいのか?」 「本当は制限なんてかけたくないんだが……漣が退屈するだろ?」  わかっている。猛の言葉に漣は思わず笑みを零した。だから猛は唯一無二の友なのだ。漣が同じことの繰り返しを嫌う人間だと理解している。  猛の「ハンデ」とやらで漣が先攻だ。ボールをコートの外に出してしまった時点で攻守交替となる、と猛から言われた。つまり、猛にボールを取られたら事実上漣の攻撃は終了となるだろう。ならば、その前にシュートを決めるほかない。 「考えてるな? 漣」  心底楽しそうに猛が言う。漣がいかに効率よく行動するかを考えて動く人間であることを知っている猛だからこそ出た言葉だ。見抜かれたばつの悪さは多少あるが、猛ならば笑ってしまえる話だ。  ボールが投げられた。  受け取った時のその感覚に懐かしさを感じる。フラッシュバックする思い出。中学時代。体育館に響くバスケットシューズの耳障りな――甲高い音。汗を飛ばしながら指示を出す能無しの――司令塔だった部長。いつだって思っていた。いつだって感じていた。  『あの無能なんかより俺の方が上手い試合運びが出来るのに!』
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