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「――っ」
猛は堅守の構えだ。百八十超の巨躯は最早壁なんて生ぬるい言葉では足りない。百七十センチに満たない漣が猛を前にしても思う。
――要塞だ。
こんな馬鹿げたサイズの男を突破しろだって? 漣は嘲笑した。正攻法で行くのは漣には無理だ。こいつがもし攻撃になって突撃してきたら、きっと対峙するということは脳内から吹き飛ぶだろう。天賦の才か鈍感な心臓を持ち合わせていない限り。
だから漣はそんな愚策は講じない。
「お」
大男への対策は機動性だ。トリッキーな動きと巨躯では対応できないスピードと小回りで翻弄する。常套手段ではあるが、まずはこれで様子を――
――はや……っ!?
猛の身体能力は漣の想像を遥かに超越していた。右に振ってからの左サイドへの転換。出来るだけ俊敏に行った。猛も釣れた。あの短時間でこの体格を反対方向へシフトさせることができるなんて、漣は思わなかったのだ。出来たとしてもこんなに早く対応されるとは思わなかったのだ。
「俺への対抗策としては凡庸だったな、漣? お前らしくもない」
「……なんだと」
そしてこの挑発。ボールを持っているのはまだ漣だ。だが追いつかれたこの距離では漣の顔を覆えるくらいの巨大な手が軽々とボールを掴んでしまう。
何より、漣を煽る言葉を心得ていた。
「俺をそこらのクズと同じカテゴリでくくるなよ、猛ッ」
漣はボールを力いっぱい握り、そして――
「やってんなあ、猛虎さんよお!」
場違いな、あまりにも場違いな声が漣の耳を汚した。
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