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「何故練習なんてするんだ」
彼としては至極当然の問いだった。しかしその言葉を告げた瞬間――彼の憮然とした表情もあって――女子は怒りに近い不快感を露にした。
「みんなでうまくなって優勝するためよ」
「俺には当日完璧な音程と音量で歌える用意がある。もう十分うまい、だから練習する必要もない」
「みんなでやらないと意味がないじゃない」
「意味? 何が無意味だと言うんだ」
「みんなで一緒にやって、心をひとつにして! 一緒に頑張るからいい合唱になるんじゃない!」
女子はかなり苛立っていたらしい、語気を荒くして彼にそう言った。怒鳴った、に近いかもしれない。その感情論に、あまりにも馬鹿馬鹿しい根拠に――彼は失笑せざるを得なかった。
「心をひとつに? 一緒に頑張る? お前はそんなことのために俺を拘束する気なのか?」
「そんなことって何よ!」
「それこそ無意味だ」
彼は不気味なほど澄みきった瞳を、一切の迷いも間違いも感じられない瞳を女子に向けて言い放った。
「努力なんて非効率だ。精神論で物事は上達しない。大事なのは必要最低限の労力でどう成果を得るか? それが出来ない不器用な奴らは努力をやたらと美化したがる。いいか、俺は努力って言葉を押し付ける屑が、大ッ嫌いだ」
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