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明星高校に三十五回目の桜の花が舞う。校門前の枝垂桜の一番美しい瞬間をよそに、少年は気だるそうに瞼を閉じた。
朝川漣(あさかわれん)。十七歳、明星高校二年生、男子。
入学式というイベントは退屈この上ない。二年生という中途半端な学年もその一因だ。大してやることもないのに登校だけはさせられて拘束される。しかし入学式に出席するわけではなく、やれ総合だHRだと箱庭の中で無益な時間をただ浪費する。この高校を時間泥棒だと言って糾弾したいくらいだ、と冗談交じりに思った。小学校の学芸会では待ち時間に人気アニメ映画を垂れ流しにしてくれるサービスがあったと言うのに……漣は嘆息した。
「俺こないだの模試最悪だったんだけど」
「気にすんなって。模試なんてみんなそんなもんだろ?」
――ああ、つまらない。
下賤とはこいつらのような人間を言うのか。俗世にまみれたミーハーの戯言は、耳に入るだけで不快だった。イヤホンをしたって遮ることができない常世。漣は同じ空気を吸うことにさえ嫌悪を感じた。
別に人間が嫌いなわけではない。ただ、理解できないだけだ。
当たり前のことが何故できないのか、と。
模試の結果が最悪だった? 漣から言わせてみれば、何故あの程度の問題を解けないのかが疑問だ。参考書を見ればいくらでも応用が利く。問題なんてアングルを変えて出題されるだけのパズル。それを一方向からしか見ないから間違える。難しいと錯覚する。何故同じ方向から物事を考えようとするのか、漣にはそれが理解できなかった。
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