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「葉桜」という風流で趣ある苗字を冠する割に豪放磊落、喧嘩っ早い男だ。それはドアに頭をぶつけるほどの長身とそれに見合った肩幅や筋肉が物語っている。
猛とは中学校以来の友人で、漣にとって唯一無二の友と言っても過言ではない。だが、彼が唯一無二の友であるがゆえに周囲から距離を置かれている。
葉桜猛――中学時代のあだ名は「猛虎」。
中学生らしいセンスであったとは思うが、彼の名前とその荒々しい戦績からそう恐れられるようになった。いわゆる「札付きのワル」というやつだったのだ。
そんな過去を持つ男と友人だと知ったら? 周囲の反応は至極当然であった。しかし、漣はそんなことをまったく気にしない。猛が元不良だろうが、漣が周りから浮こうが関係ない。他人と馴れ合うことに猛と馴れ合う以上の価値があるとは考えられないから。
「珍しいな、猛。お前がここに来るなんて」
「いやあ、別に昼でも良かったんだがな。漣には早いうちに言っとくべきかなーと思ってさ」
クラスの違う猛が漣のもとを訪ねるのは珍しくない。ただ、主に会うのは昼休みや放課後であり、入学式の間のこの時間――つまり十分程度の休み時間で訪れるというのはレアケースであった。
「話か? 場所を変える必要があるなら付き合うが」
「いや、ここで大丈夫だ。深刻な話でもねえから」
猛は気さくな笑顔でそう答えた。深刻でもないが、早く言っておきたい話とやらがあるらしい。話の中身は正直どうでもいいが、猛ならと漣は先を促した。
「そうか。で、どんな話を?」
「ああ。実は漣に頼みがあって」
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