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「頼み?」
猛に頼まれることは初めてではない。無理難題をふっかけられたことはなかったし、漣は疑念も不安も抱くことなく頼みとやらの続きを待った。
「今日の放課後なんだが、バスケの助っ人を頼まれてくれないか?」
バスケットボール。なんだか懐かしい響きだった。
別に嫌な思い出がまとわりついているわけでも、輝かしい戦績を残したわけでもない。ただ、中学時代を思い出しただけだ。
「バスケ、ってお前」
猛は中学時代の悪名のせいで部活動に入っていなかったはずだ。確か高校に入ってからは喧嘩も控え「代わりに鬱憤晴らしできるものを探す」と豪語していたが……それが中学時代にかじっていたバスケだと言うのか。
「しかも俺のチームがある」
「は」
話がよく見えない。持ち前の要領のよさと推測で物事を考えようとした。確実なのは、猛が部活をしていないということ。その上で自分のチームを持っているということは。
小さな驚きで一瞬停止していた思考がようやく正常に機能し始めた。
「……ああ、例のアレか。ストリートバスケ」
「ご名答」
親指を立てて猛がニッと笑った。体育会系の笑顔、と言った好感が持てるものだ。その威圧感が隠し切れない体躯を除けば、だが。
それにしてもストリートバスケとは、猛に似合っているなと漠然としたイメージを抱きながら漣は思った。
たまに公園でも設置されている、ハーフコート。あの枠の中で本来のバスケットボールにあるような厳格なルールに縛られないスタイル。ダンスファッションをこじらせたような目の覚める格好をした柄の悪い男が乱暴と派手の境界を探りながら鮮やかにシュートを決める――漣が抱くイメージの全容であった。
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