一章 不可逆の覚醒

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「しかし、落ち着いたと思ったら。そんなことやってたのか」  純粋な感心だ。クラスで同じ息を吸う俗物への侮蔑にも似た思いやひねくれた解釈は猛の前でならなりを潜めることが出来る。 「高校の入学式の帰りに公園で見かけてさ。ダンクシュートを決める姿に魅了されたわけだ」  猛は嬉々とした表情でストリートバスケに魅せられた思い出を語る。 「ルール無用! まではいかねーけど、細かいルールや反則を気にしなくていいのが良かったな。拳以外にやりあう方法なんてねえのかな、って思ってた時期だからさ」 「……へえ」  猛が熱中するほどのもの、という意味では多少の興味がわくが、実際にプレーしてみたいと思えるほどのものではなかった。  ストリートバスケ――ハーフコートの少人数バスケ。5on5でも3on3でも1on1でもいいという自由なスポーツ。きっと猛はその言葉に惹かれたのだろう。  生憎と漣はどこか冷め切った心で猛を眺めていた。どうしてもストリートバスケが魅力的には思えなかったのだ。 「俺、3on3のチームを組んでるんだけど、一人高熱で倒れちまって。今日はこの界隈じゃあ名の通ったヤツらとやれるっていうから、逃げるわけにはいかなくてな」  なるほど、と漣は今の猛の言葉で事情を察した。「この界隈で名の通ったヤツら」とは、どうやらその筋では有名な人間のいるチームらしい。その筋に片足を突っ込んだ猛だが、人間関係と過去はまだ引きずったままらしい。その清算を暴力ではなくスポーツでできるのなら断然ありがたいのだが。
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