セラフィム

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「だけど、どんなに絶大な力であってもそれは使い方次第だよ」 人差し指を突き立て、ハデスは爽やかな声で自らの意見を述べ始めた。 「例え一国を滅ぼす力を持っていたとしても、僕はそれを私利私欲の為に振るおうとは思わない」 その発言が真実であるのか、または虚偽なのか。今の状況下では判断しかねるが、少なくともアレスの言ったものとは違う。 トーマスは、そう結論付けた。そう思いたかっただけなのかも知れない。 「まぁ、今は何をするではなくて、全員が自分の力を制御下に置くことが当面の目標だよ。全てはそれからさ、この集団が存在する理由を考えるのはね」 ぺしゃんこに押し潰された蝋燭立ては、すでに悪趣味な造形物へと価値を下げてしまっていた。 所々メッキが剥げているところが、より印象を悪くしている。 「そして今日、僕達に新たな課題が生まれた」 自身の能力で押し潰した蝋燭立てを尻目に、ハデスは自らの目を指で差す。そこには依然として、蒼い輝きが灯っていた。 「僕ら兄弟とアレスに、少し変化が起きてね。君もよく知ってるだろう? 扱う力がより強大なものへ変わったんだ」 「……目が光ることがその原因だってか?」 「それ以外に考えられないね。簡単に言うと、能力を使ってできることがひとつ増えた。扱うにあたっての幅が広がった……と言う方がわかりやすいかな」 そう言い放つハデスの右手に、青白い歪みが発生する。それは今までにトーマスが見たものの中で、何よりも不気味さに満ちていた。 「能力が進化したのさ。物体の重力量を変化させる僕の力は、こうして重力そのものを集束させるまでに至った」 彼の右手から、歪みが消えていく。そこで気づいたが、ハデスの額には大量の汗が滲んでいる。 「でもこれは問題だよ、強力な進化を遂げた代償に、かなりの体力を消耗してしまう。おまけに抑制が利かなくなる始末だ」 「抑制が利かない? それで俺とトムは殺されかけたってのか?」 「そういうことだ。皆がランチを済ませたら一度、全員で集まろう。これからについての話し合いも兼ねて、この進化の問題を解消しないとね」 時刻はすでに十二時を回っている。腕時計を確認したトーマスは、唐突な空腹感を覚えた。
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