セラフィム

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強く、しっかりと扉を閉めたトーマスは、薄暗く長い廊下を淡々と歩き続ける。 灰色の絨毯は薄汚れており、等間隔で壁に取り付けられた蝋燭立ては、ひとつとしてその役割を果たしてはいなかった。 「……フン」 鼻を鳴らし、ポケットに両手を入れて先程の会話を振り返り、嘲笑。 アレスの言葉には信憑性がない。彼は少しも迷うことなくそう判断し、すぐに忘れることにした。 が、同時に彼は使命感を持った。発言に真実味があろうとなかろうと、アレスの思想は危険なのだ。 放置していれば、この集団にも世間にも、多大な被害を及ぼすことに間違いはない。 トーマスはそう、確信している。 と、そこで、ようやく目の前に見えた両開きの赤い扉が開かれた。 その奥、大広間とも呼べるエントランスから姿を現したのは蒼い髪を揺らす細身の男。 「……ランディー」 「やぁトーマス君。体の方は大丈夫なのかな?」 開いた扉をそのままに、彼は爽やかな笑顔を浮かべて蒼の瞳に輝きを灯す。それは表情や声色とは裏腹に、トーマスを深海の底に引きずり込むような錯覚に陥らせた。 「別に怪我はないが、奴の相手はもうゴメンだ。あんたの弟にでもやらせるんだな」 「無理もない、殺されかけたんだからね。そしてつい先程、トム君も同じ目に会ったようだ」 顎に手を当てて視線を流す彼の様子からは、心配している素振りなど微塵も感じられない。 「僕の弟の仕業でね。君が言うように、そんな二人を競い合わせたら周囲どころかこの家にも被害が及んでしまうだろう。人選には気をつけないとね」 「だったらあんたが相手をしたらどうだ? ランディー」 そんなことを気にかけることなく、トーマスはそっけない言葉を返す。 「僕が? フフ、僕の能力は組手には向いていないよ。これはシェリー君にも言えることだが、相手に直接的に作用する力ではそれ以外を扱う者と比べようがない」 「……それはアレスも同様だろう」 「かも知れないね。これから僕達三人は極力、外回りに向かうとしよう。あぁそれから……」 扉を開いたまま、彼はトーマスの横を通り過ぎていく。その途中ですれ違い様に肩へ手を置いた。 「……僕のことは″ハデス(冥界神)″と呼ぶように」
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