セラフィム

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「あんたも下らない遊びに付き合うつもりとはな」 肩に置かれた手をそっと払い、背を向けて去ろうとするハデスへ振り返る。 「遊び……か。確かに神話に準えた神々の名を語るのは児戯に等しい」 そう言って足を止めた彼だが、扉の前で自身を睨みつける視線を感じつつも、その場でうつ向くだけで踵を返そうとはしない。 「だが、神々と同等の力を手に入れた者達になら、その名を継ぐ権利はあって然るべきじゃないか?」 直後、ハデスの両隣にある蝋燭立てが独りでに床へ落下した。かなり丈夫な造りで壁に設置されていたようだが、強引に剥がされたのか、壁の破片と共に灰色の絨毯を転がる。 「僕や君のようにね、″セレネ(月妃神)″」 「なんで俺が女神なんだよ」 「細かいことはいいじゃないか。所詮は遊びに過ぎない……そう思っているのならなんだっていい筈だ。君のことはこれからも、トーマスと呼べばいいんだろう?」 次は、床に落ちた蝋燭立てが宙に浮き、ハデスの両手にしっかりと掴まれる。 これは彼の【重力を操る力】を使用した結果なのだが、トーマスはそれがわかっていても額に滲む汗は止まらない。 「……この集団は何の為にある?」 「なんだい? 藪から棒に」 不意に投げられた質問を受け、ハデスは肩越しにトーマスへ視線を移した。不気味に煌めく蒼の瞳が、再び彼の意識を暗がりの水底に連れていく。 「あんたら兄弟は何の為に俺達を集めた? 本当の目的はなんだ?」 「明確な目標がない集団にいるのは嫌かい?」 「そうじゃないが、あんたの考えてることがわからない。アレスもそうだ。奴は、能力で世界をどうにかできると思ってる」 「結構なことじゃないか。それだけの力を、彼はこの集団で得たんだから」 長い会話の中で振り返り、ハデスは握りしめた蝋燭立てを再び足元に捨てる。 すると、嫌な音をたてて金属製の蝋燭立ては押し潰され、無惨な姿へ変化していく。 「君もやがて、世界を揺るがすほどの力を手に入れる。もう決まっていることだ、ここにいる八人の能力者はすでに、軍隊すら圧倒する集団と化しているんだ」 ハデスの言葉から、彼はアレスと似た思想を感じとった。しかし、そんなトーマスを見たハデスも同じく、彼の考えを見抜いたらしい。
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