セラフィム

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「じゃ、また後で」 ハデスはそれだけを言い残し、悠々とこの場から去っていく。そこに漂うのは静かに、しかし鋭く不穏な戦慄。 「……」 トーマスは返す言葉を持たなかった。彼が共にいる者達は皆が同じ志を持ち、自身の能力を制御下に置くことを望む集団。それだけのはずだった。 その後のことなど、トーマスは考えたこともなかった。言われてみれば目的を達成した後、どうするか。 これは異質な力を持つ自分達にとって、重要な問題だと気づく。 「……俺は″アレス″の考えにゃ反対だ」 小さくつぶやき、振り返った彼も場を後にする。その声はハデスに届くはずもなかったが、 「何が反対だって?」 いつの間にか後方から歩いてきていた、茜色の瞳を持つ茶髪の女性には聞こえていたらしい。 「おぉ、シェリーか」 わずかに戸惑いを見せつつも、トーマスは平常を保つ。歩き出してすぐに踏み止まったので、少し体勢を崩した。 「殺されかけたんでしょ? 歩き回って大丈夫?」 「そんなに重傷じゃない。間一髪だったがな」 ふてくされるように腕を組むトーマスを見て、シェリーと呼ばれた女性は可愛らしく微笑んだ。 彼女は【念動能力】を持つ能力者。俗にサイコキネシスと言われるそれは、手を触れずにものを動かせるという超能力の代表格だ。 名はシェリー・バートン。八人からなる集団内において唯一の女性であり、最も万能な力を扱う人物である。 「そんなことよりもシェリー、お前はどう思う?」 口元を手で隠しながら笑うシェリーに、トーマスは怪訝な顔で質問をぶつける。 「何が?」 「この集団の存在意義っていうか、俺達が能力を極めた後のことだ」 真剣な眼差しで言い放つトーマスだが、彼女の表情は緩むばかり。揚げ句の果てには、 「あはははっ!」 思わず吹き出し、両手で顔を隠して肩を震わせる始末だ。 「あんた、そんなこと気にしてるわけ? 殺されかけたから、変なことに躍起になってんの?」 笑い過ぎて涙が出たのか、シェリーは落ち着きを取り戻すと共に目元を細い指で撫でる。 その反応に、トーマスは怒りを覚えるどころか困惑した。彼もまさか、笑い飛ばされるとは思っていなかったようだ。
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