セラフィム

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「笑いごとじゃねぇぞ」 トーマスは真剣な眼差しでそう告げたが、シェリーの笑いは止まらない。 「おい……」 無理にでも制止しようかと考えたトーマスだが、やめておいた。これ以上反発した態度をとるのは、さらなる笑いを誘うと判断したからだ。 「ご、ごめんごめん……でもさ、ちょっとおかしくって」 しばらく笑い続けた彼女の目には涙が滲んでいる。それを指で拭い、呼吸を整えてからトーマスの肩に手を置いた。 「私達は普通とは違う。だからこうして集まって、普通の暮らしができるようにお互い支え合って学んでいく。それだけよ」 「俺は学び終わった後の話をしてんだぞ?」 シェリーの手を払いのけ、またも真剣な表情で言葉を返す。 「終わった後はわからないけど、それぞれにあった生き方をしていけばいいと思うよ?」 言われたトーマスは押し黙り、考える。 おそらくシェリーは力の制御を覚えた後、真っ当な生き方を選ぶだろう。 だが、 「それが問題なんだ」 彼が懸念しているのは、まさにそこなのだ。 「ウォーリーを見てみろ。あの能力があれば軍隊だろうと一瞬で炭屑だ」 アレスとハデスの言葉が、脳裏から離れない。この先、集団にいる者達が過ちだらけの道をたどった時、それを止める力は自分にはない。 「誰も止められねぇぞ? あんな力を持って一般社会に出て、どう暮らす? これから先、能力を使わずに生きていけると思うか?」 トーマスは、不安なのだ。 このまま置いていかれるような、皆が手の出しようのない世界へ歩を進めてしまいそうな。 「ん~、深く考えすぎじゃない?」 しかしシェリーは、トーマスの意見を聞いても深くは考えていないらしい。 「それってあの兄弟やあんたを殺しかけたアレスが、能力を使って暴れだすって話?」 「その通りだ。現にランディーは自分をハデスと名乗ってるだろ」 「意外に子供みたいなとこあるからね」 「アレスもだ。奴ら、何か企んでるぞ。俺達も何か手を打つ必要がある」
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