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僕はバッハ君を連れて待合室に戻りました。
「先生!バッハはどんな病気?」
安部さんの奥さんは、心配そうにバッハ君の十円ハゲを撫でています。
「安部さん、バッハ君は病気では無いと思います。皮膚病の心配も無さそうですし。最近、バッハ君の環境を変えたりしませんでしたか?例えばオモチャとか」
本当はさっき、バッハ君から聞いたので知っているんですけどね。
直接聞いたと言っても信じてもらえませんから。
「あぁ!確かにヌイグルミを新しく買い換えました」
「それが原因の、心因性のものだと思います。きっとバッハ君のお気に入りだったんでしょうね」
「そうなのよ。いつもくわえてぴーぴー鳴らして遊んでてねぇ」
「新しい物は鳴らないんじゃないですか?」
「もう、相変わらず良く解るわねぇ。まるでバッハから聞いたみたいね!」
安部さんの奥さんは、そう言って豪快に笑いました。僕も一緒に笑いましたが、内心ヒヤヒヤです。
「前の物が残っているなら、戻してあげるのが一番なんですが。もし無いのでしたら、似た物を買ってあげてみて下さい」
「解ったわ!帰りに早速買って帰るわね。ありがとうございますね、先生」
そう言って満足そうに帰っていきました。
店を出る前に、バッハ君が僕に向かって嬉しそうにありがとうと言ってくれたので、僕も満足です。
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