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『なあ、母さん。』
『ん?』
『オレさ…ここから出ようと思ってるんだ。』
寂れかけた小さな村、人口は少数。畑を耕し出来た作物を糧にして生活するこの村の、古びて年代を感じさせる木造の家に、コトリ――小さくカップを置く音を響かせる。
中身は若者の大好きなミルクティー。
『……この町から出て何をするの?』
小さく狭い台所から背中を向けたまま若者へと返事を返す若者の母と言うべき人。手には食器…夕食の後片付けの最中。
『…オレ、勇者に成りたいんだ。』
ふと、母の手が止まる。
『……勇者、ねえ。』
再び母の手が動く、まるでその言葉が来るのを待っていたかのように。
『うん…勇者になって、みんなの助けになりたいんだ。』
『…助けになって、あんたは何をしたいんだい。』
若者の、ミルクティーを取るべくしていた手が止まる。
『何が、したいって…みんなの助けに…。』
『…あんたのそれは、目的じゃなく、目標なんだよ。』
食器を洗い終わったのか、母は食器の水気を布巾で拭う。
『…そんなの同じだろ。』
少しふてくされたように若者は口を尖らせる。
『同じなんかじゃないさ…自分が何をしたいか、何をやりたいか…何を成し遂げたいか。』
『そう言ったら、違ってくるだろう…?』
母は椅子に座る若者に視線を向ける。
『あたしは、別に行くなとは言わない…だけど……。』
『あんたが、目的を見つけられず、死んじゃうのだけは…みっともなくて聞きたくないだけさ。』
皺だらけの顔に満面の笑みを見せて冗談混じりに言う母。
『…そういう事ばかり言うよな、母さんは。』
釣られて笑う若者。
『あんたはあの人の息子だ。いつかそう言うって…わかってたよ。』
『………』
『ねえ…やるからには、ちゃんと人様の役に立ってから戻って来るんだよ。』
『…じゃなきゃ、母さんの作るミルクティー、作ってあげないよ――ハルト。』
ハルト『…うん、わかったよ…母さん。』
夜は更けて行く、若者の旅立ちを前に、ゆっくりと、静かに。
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