2人が本棚に入れています
本棚に追加
それとも「お年頃」と言うものだろうか。
少しだけ頬に熱を感じて、だけど愛には知られたくないから僕は下を向いた。
優しい彼女はきっとこてりと首を傾げているんだろう。……ああ、でも今は僕の顔を見ないでほしい。
だから、僕は気づいて上げられなかった。愛の顔を見ていなかったから。
「……愛、早く帰らないと雨が降ってきちゃうよ」
「………。……そうだね。叶くんも早く帰らなきゃ」
風邪引いちゃうよ、と言った愛の声はとても優しく僕の耳に入ってきて、僕はそれが恥ずかしいながらも……嬉しくて。
それに満足した。だから気づいて上げられなかった。
この僅かな時のことを、僕は遠くない未来、何度も思い返して考える。
愛は、どんな顔で言ったのだろう?
それからしばらくはずっと雨だった。
一週間ずっと雨。
雨の日は愛と一緒に学校まで行く、学校から帰る登下校がなくなってしまうからつまらなかった。
愛は雨の日、必ず車で登下校する。
車から一歩も歩くことすらなく、父親に背負われて、濡れた地面を一切踏むことなく教室まで来る。
最初のコメントを投稿しよう!