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―――その子が転入してきたのは梅雨と夏が混ぜ合わさった不安定で曖昧な季節、六月の終わりだった。
じめり、と梅雨の匂いが教室に膨らみ香る教室に先生に連れられて現れた、制服姿の赤いランドセルを背負って六年二組の教室を潜った女の子。
「はじめまして。愛と言います」
よろしくお願いします、とひとひらの哀を奏でて笑顔を演じた愛と名乗った少女はそう言って照れくさそうにぺこりと、ぎこちなく頭を下げた。
艶のあるショートの黒髪を寝癖のようにつんつんと跳ねさせ、しかしそれすら愛らしいと思わせる少女。
きっと、この時既に僕は彼女に惹かれていたんだろう。
膝丈の紺のスカートの上で戸惑いがちに両手を組み、左の人差し指と右の人差し指をぐるぐると絡ませ、転校初日の不安を指から纏う空気から滲み出しているような女の子から目が離せなかった。
いつもなら「指遊びをしない」と怒る先生もはじめましてのこの場だからか、叱ることはない。
愛、と言う若干小柄なその女の子の左肩に手を置いて女の人特有の優しい声音で彼女の席を示す。
指を差され、示された席を確認すると眉を下げてまだ少し緊張気味の顔で頷き、彼女は今日からの自分の席に向かってまっすぐ歩いてきた。
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