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一番後ろ。窓際の机の隣。
「………えっと…」
戸惑いがちな瞳と目があった。
ランドセルを机に置いて、彼女は困ったように笑いながら僕を見る。
挨拶をしようか、どうしようか。
悩みの種がよくわかる表情だった。
確かに、転校初日だから色々悩むところはあり、迷う材料もそこらにごろごろと転がっていることだろう。
「………だよ」
「え……と……えと……?」
僕自身、初対面な彼女に緊張していたと思う。
だから言おうとした言葉も最初の方が掠れてしまって、上手く彼女に届かなかった。
明らかに僕の声量不足なのだが、彼女はまるで聞き逃した自分が悪いかのような、ばつの悪い表情を形作る。
申し訳なさ半分、照れくささが半分で僕はもう一度言った。
自己紹介の言葉を。
「……叶、だよ。僕の名前は、叶」
「!……愛です。よろしくね、叶くん」
たったそれだけのことなのに彼女―――愛はとても嬉しそうに哀しそうに笑った。
愛が哀なのか。
哀が愛なのか。
よくわからなくなった、六月七日のその日。
僕と愛はともだちになった。
たった、ひと月だけの……大事で大切ともだち。
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