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「あ、ワタル君お疲れ様」
シノンと入れ違いになる形で出てきたのはリナだった。白とピンクのチェック柄のエプロンが彼女の可愛らしさを更に引き立てる。両手に持った盆にはトマトリゾットが乗っていた。グツグツと煮えて湯気が昇る様を見ていると、腹が情けない悲鳴を上げる。
「もしかしてそれ、リナが作ったのか?」
「シノンちゃんのキッチン借りてね。今回はちょっと自信作」
料理をテーブルに置いて、ご機嫌なリナはワタルに向き直る。心のそこから祝福するかのような満面の笑みで彼女は言った。
「それにしても凄いよワタル君! D組のハルク君って言えば、実技なら一年で十指には入るくらいの実力者なのに」
「た、たまたま相性がよかっただけだって。次やったら勝てるかなんて分からないし……」
餌を待つ子犬みたいにきらきらした目を向けられて、ワタルは顔を逸らしてしまう。わざとではないのだろうが、その整った容姿から繰り出される上目遣いに心臓をピンポイントで撃ち抜かれそうだ。
「おーっとワタル選手、手作り料理と上目遣いのコンボにふらついている! このままではKOも近いぞ!」
そしてすかさずコメントを(リナには聞こえないように)挟んでくる三つ編み実況者。勿論見ていると無性に腹が立つようなにやけ面だ。
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