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「っとそうだ。ワタルにだけ言ってなかったな」
「? 連絡事項でもあるんですか?」
首を傾げるワタルに、ゼルは首を振った。近づいてその腕を伸ばし──手がワタルの頭に乗る。
「先生何を──痛っ!」
武骨な手が黒髪を乱暴に掻き回す。痛いを訴えても止めるどころか、尚更手に込める力を強くして、
「試合見せてもらったぜ。よく頑張ったな。偉えぞ」
嬉しそうに。誇らしげに。爽やかな笑みを浮かべて、誉めてくれた。
「……ありがとう、ございます」
予想外の事に呆けながらも、どうにか礼を言う。ゼルは気にした風もなく、床に大の字に横になった。受け持ちの生徒、しかも女子の部屋でこの態度というのは、ある意味尊敬に値する。
レウスに、軽く肩を叩かれた。
「びっくりしただろ。俺達皆、同じことやられた」
「うん。普通に教師しててびっくりした」
「確かにそっちの意味でもあるよな」
二人して苦笑してしまう。普段はだらけていても、ここぞというときはきちんと『先生』になってくれるのがゼルの良いところなのだ。もっとも、普段が些か以上に酷いというのには閉口するしかない。
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